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岡山地方裁判所 昭和25年(行モ)8号 決定 1951年2月14日

岡山県後月郡高屋町

申請人

木坂芳太郎

右代理人弁護士

明石日吉

同県小田郡笠岡町

被申請人

笠岡税務署長

植野澄雄

右当事者間の昭和二十五年(行モ)第八号行政処分執行停止申請事件につき当裁判所は次の通り決定する。

主文

本件申請を却下する

申請費用は申請人の負担とする

理由

申請代理人は、「申請人より被申請人に対する行政処分取消事件の判決確定に至るまで被申請人が申請人の動産に対してした国税滞納処分の執行を停止する。」との裁判を求め、

その理由として申請人は岡山県後月郡高屋町において織機二十二台ミシン六十五台を設備する工場を所有して織物業被服縫製業を営みかたわら両備和紡工業株式会社々長三興織物協同組合理事長を兼ねて来たものであるが、昭和二十四年度の自己所得税に関し昭和二十五年一月中被申請人に対しその所得金額を三十三万三千九百六十円とする確定申告をしその税金を納めたところ同年三月十日被申請人から同年二月二十五日附の更正決定(昭和二十四年分所得税確定納税額更正決定及び追徴税額決定)の通知を受けたのでこれに対し同月十四日再審査の請求をした。しかし右更正決定は申請人の所得を事実に反し過大に認定してなされた違法の処分であるので申請人はこれが取消を求めるため同年十一月二十七日被申請人を相手どり御庁に対し行政処分取消の訴を堤起したがこれよりさき右国税の滞納処分として申請人所有の動産に対し差押処分がなされた。しかして前記取消訴訟における本案判決の確定までには相当の日子を要しその間右差押物件は公売されると思料されるのでもしそうなると申請人の企業は経営不能に陥り従業員も失業し償うことの出来ない損害をこうむる虞があり右損害を避けるため緊急の必要があるので本件申請に及んだものであると主張し、疏明として疏第一ないし第九号証を堤出した。

当裁判所は職権を以て当事者双方本人を審訊した。

よつて、案ずるに申請人審訊の結果に疏第一、二、九号証を総合すると申請人の営業並に兼職関係がその主張の如くである事実、申請人が昭和二十四年度の所得税につき主張のように確定申告をしてその税金を納めたが主張のように更正決定の通知を受けて再審査の請求をし主張のように行政処分取消の訴を堤起した事実並に申請人が右税金を滞納したため主張のように差押処分を受けた事実を認め得るけれども申請人主張の本件更正決定即ち所得税等の賦課処分の執行が申請人に生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がありとの事実についてはこれを認め得る何等の疏明資料もない。被申請人審訊の結果によれば申請人主張の本件差押に係る動産中には仮にこれを公売したとしても金銭をもつて償うことのできないものは何等存在しない事実を認めることができる。本件申請は理由がないので却下を免れない。よつて申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井上開了 裁判官 菅納新太郎 裁判官 辻川利正)

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